はじめに：指導者の「善意」が「悪影響」になる時

子どもたちの健やかな成長を願う教育者、指導者、そして保護者支援者の方々。日々、子どもたちの個性と成長の可能性を信じて指導にあたっていることと思います。

しかし、良かれと思って行っている対応が、実は子どもたちの自己肯定感を削り、学習や行動の困難を悪化させているケースが少なくありません。

特に、ディスレクシアのような学習の特性や、集中力・行動のコントロールに課題を抱える子どもたちへの対応は、細心の注意が必要です。

本記事では、これまでの行動分析学（ABC分析）や脳科学（ブレインジム）の知見に基づき、子どもに関わる仕事をしている人が絶対避けるべき7つの「NG対応」と、すぐに実践できる「OK対応」を具体的に解説します。あなたの指導を効果的かつ、子どもに優しいものに変えるための重要なヒントが満載です。

子どもの成長を妨げる！絶対NGな指導・対応7選

1. NG対応：行動の理由を「性格」や「やる気」で片付ける

「うちの子は本当に怠け者で…」「あの生徒は集中力がないからダメだ」

• 理由: 行動心理学（ABC分析）では、望ましくない行動のほとんどは、環境の要因（A:先行要因、C:結果）によって強化されています。行動を「性格」や「人格」の問題にすり替えることは、環境の改善機会を完全に失います。
• OK対応: ABC分析を使い、「その行動の直前に何があったか（A）」、「行動の結果として何を得たか（C）」を客観的に記録する。指導のターゲットを子どもの内面ではなく、環境の調整に切り替える。

2. NG対応：読み書きの困難を「努力不足」と指摘する

「もっと丁寧に読めば分かるでしょう」「何度もやればできるようになる」

• 理由: ディスレクシアなどの読み書き障害は、脳の音韻処理機能や視覚情報の短期記憶の特性であり、努力や根性で解決できる問題ではありません。この指摘は、子どもに「自分はダメな人間だ」という無力感を植え付けます。
• OK対応: ディスレクシアなどの学習特性を理解し、ICT機器（音声読み上げ機能）やマルチ感覚的な指導（文字をなぞるなど）といった具体的な代替手段を提供する。

3. NG対応：極度の緊張や不安を「気合」で乗り越えさせようとする

「本番なんだから、気合で頑張りなさい」「泣いているのは甘えだ」

• 理由: 極度の緊張や不安は、脳のストレス反応であり、身体が学習やパフォーマンスを拒否している状態です。この状態で「気合」を要求しても、脳の機能は低下する一方です。
• OK対応: ブレインジムの「フック・アップ」や「水を飲む」といった簡単な動きで、その場でストレスを穏やかに解放する手段を教える。身体からアプローチし、リラックスできる状態に整える。

4. NG対応：望ましくない行動にばかり注目する（叱ることで注目を与える）

「また席を立った！」「静かにしなさい！」

• 理由: ABC分析において、叱責や注意は、子どもにとって「注目（関心）」という強力な報酬（C:結果）として機能することが非常に多いです。注目を集めるために、望ましくない行動を繰り返す悪循環を生みます。
• OK対応: 望ましくない行動は、可能な限りクールに無視（消去）し、代わりに「席に座って鉛筆を持っている」など、望ましい行動（代わりの行動）をしている瞬間に具体的かつ肯定的な言葉で褒める（強化）。

5. NG対応：曖昧な指示を出し、理解を相手任せにする

「しっかりやりなさい」「もうちょっと頑張って」

• 理由: 特に発達特性がある子どもたちは、抽象的な表現の理解が難しい場合があります。また、タスクが大きすぎると、どこから手をつけていいか分からず、「回避行動」**につながりやすくなります。
• OK対応: 指示を「いつ（期限）」「何を（具体的行動）」「どうする（手順）」を明確にしたスモールステップに分解する。必要に応じて視覚的なリスト（やることリストなど）で提示する。

6. NG対応：準備段階の不足を無視する

「授業が始まっているから、すぐに集中しなさい」

• 理由: 集中や学習には、脳と身体を適切な状態に整える「準備（ウォーミングアップ）」が不可欠です。前の活動の興奮やストレスを引きずっている状態では、能力を発揮できません。
• OK対応: 活動や学習の切り替え時に、必ずブレインジムの「PACE」ルーティンを導入する。特に「クロス・クロール」などで、脳の左右連携を整え、学習準備状態を意識的につくる。

7. NG対応：「完璧」を求めすぎ、小さな成長を見逃す

「あと一つミスがあったら完璧だったのに…」

• 理由: 困難を抱える子どもたちにとって、完璧は到達困難な目標です。常に完璧を求められる環境は、挑戦する意欲を奪い、失敗への恐怖心を高めます。
• OK対応: 「前回よりも、今日はここが良かったね」と、本人の過去のデータと比較した具体的な進歩に焦点を当てて褒める（個人内評価）。努力のプロセスを認め、「できる」という感覚（自己効力感）を育む。

まとめ：効果的な指導は「理解」と「環境調整」から

子どもに関わる仕事は、子どもの未来を左右する責任のある仕事です。感情や主観で対応するのではなく、行動分析や脳の特性といった科学的な知見に基づき、指導・支援を行うことが、すべての子どもの可能性を最大限に引き出します。

「行動には全て理由がある」ことを忘れず、NG対応をOK対応に切り替えることから、あなたの指導の質を高めていきましょう。